RESEARCH HIGHLIGHT

アッカド帝国崩壊の原因をサンゴの化石から解明 〜サンゴの化石から復元した月単位の古気候記録の証拠〜

本結果は以下の論文に掲載されました。

Watanabe T. K., Watanabe T., Yamazaki A. and Pfeiffer M. (2019) Oman corals suggest that a stronger winter shamal season caused the Akkadian Empire (Mesopotamia) collapse, Geology

Available at: https://doi.org/10.1130/G46604.1.

西アジアのチグリス・ユーフラテス川流域で発達したメソポタミア文明では,約 4,600 年前に初の 帝国であるアッカド帝国が建国されました(図 1)。この帝国は,冬の雨季を利用した天水・灌漑農業を 発展させ繁栄していましたが,建国から約 400 年後の 4,200 年前に崩壊してしまいます。

これまでに,考古調査と堆積物の柱状試料や鍾乳石を用いた古気候復元の結果では,帝国の崩壊には 乾燥化が影響したことが示唆されています。一方で,この乾燥化の気候のメカニズムやメソポタミア 地域の社会への影響は解明できていませんでした。

そこで,研究グループは月以上の時間解像度で古気候を復元できる化石の造礁サンゴ骨格に注目し, 化石造礁サンゴの骨格から季節ごとに古気候を復元しました。化石から復元した気候変動と,現在も 生きている造礁サンゴから復元した現在の気候変動と比較することで,帝国が崩壊した時代の気候と, その社会への影響を検討しました。

図 1.試料の採取場所(星印)。白×印はアッカド帝国の首都の役割を担っていたとされる都市 (テル-レイラン)の場所を示す。

【研究手法】

研究グループは,アラビア半島,オマーン北西部の沿岸で造礁性サンゴの化石群を発見しました (1 ページ目写真)。このサンゴ化石を研究室に持ち帰り,放射性炭素年代測定*4 を用いたところ, 約 4,100 年前を含む 4,500〜2,900 年前に生息したサンゴであることがわかりました。また,2 週間に 相当する年輪ごとに区切って化学分析(酸素安定同位体比,Sr/Ca 比)を行いました(図 2(A))。 サンゴの骨格には,樹木のように年輪が刻まれており,過去の大気・海洋の環境変動が 1 週間〜1 ヶ月 間程度の細かい精度で記録されています。

さらに,サンゴ骨格中の化学組成の変化からわかる海水温・塩分変動を基に,アッカド帝国が崩壊 した時代の気候変動を復元しました。このようにサンゴ化石から復元した気候変動を,現生サンゴから わかる現在の気候変動及び観測記録と比較しました。

図 2.(A)化石サンゴから分析した各時代における酸素同位体比と Sr/Ca 比。 (B)化石サンゴから復元した冬の気候とアッカド帝国周辺の遺跡の面積。化石サンゴは約 4,100 年前の気候イベントを記録しており,約 4,200 年前にアッカド帝国 周辺の遺跡の面積が減少している。

【研究成果】

約 4,100 年前の化石サンゴには,他の時代と比べてオマーン北西部の気候が冬に寒冷であったことが 記録されていました(図 2(B))。この約 4,100 年前の冬の異常気象は,2〜3 ヶ月間程度継続していま した。しかし,冬の異常気象は約 4,100 年前以降には確認されず,現在に似た気候であったと考えられ ます。また,現生の造礁性サンゴ骨格の柱状試料から復元した過去 26 年間の冬の海水温・塩分変動を 解析したところ,西アジアの地域風(シャマール)が冬に頻発するほど,オマーン北西部は冬に寒冷で 低塩分化することがわかりました(図 3)。シャマールは西アジア地域からアラビア半島に吹き下す 風で,西アジア地域の乾燥を深刻化させ,砂嵐を引き起こします。

現生サンゴの記録との比較から,アッカド帝国が崩壊していた約 4,100 年前は,冬にシャマールの 頻度が増大していたことが示唆されました。冬のシャマールの頻発によって発生するメソポタミア地域 の乾燥化と砂嵐は,冬の雨季に農業を営むアッカド帝国の社会・農業システムに深刻な影響を与えたと 考えられ,具体的には乾燥に伴う農業の困難化と飢饉の発生や,砂嵐の多発による健康被害の発生など が挙げられます。この結果,アッカド帝国は死亡率と移民の増加により崩壊へとつながったと考えられ ます。この約 4,100 年前の冬の異常気象は,約 3,600 年前には収束しており,安定した気候となった メソポタミア地域では再び繁栄が始まりました。

【今後への期待】

本研究では,季節ごとの高い時間解像度をもつサンゴの古気候記録を基に,気候変動が古代文明と その社会に与える影響を解明することに成功しました。季節変動は人類の生活(農業など)に直結する 気候変動であるため,サンゴ記録と考古学との学際的な研究は,気候変動が過去・現在の社会にどの ように寄与するかを解明する一歩になると期待されます。

図3.オマーン北東部で採取された現生サンゴから復元した冬の気候とシャマールの発生頻度。シャ
マールが発生するほど,寒冷になる傾向にある。現在の気候において,シャマールが引き起こす  
砂嵐や乾燥化が中東地域の農業生産・健康被害に影響を与えることが指摘されている。

【用語解説】

*1 造礁性サンゴ … サンゴの中でも,体内に褐虫藻と呼ばれる藻を共生させることで骨格の成長

速度を速めているサンゴのこと。造礁性サンゴは,共生している褐虫藻が光合成で得たエネルギーを 利用することで,骨格の成長速度を速めている。造礁性サンゴの骨格は炭酸カルシウムからなり, 樹木の年輪のような骨格を形成する。この年輪に沿って化学分析を行うことで,1 週間〜1 ヶ月程度 の細かい精度で古環境を復元できる。サンゴの死後,骨格が化石として保存されるため,サンゴが 生きていた時代の古環境を復元できる。

*2 酸素安定同位体比 … 酸素には質量数 16,17,18 の 3 つの酸素安定同位体比が存在する。造礁性 サンゴなどの炭酸カルシウム骨格は,質量数 16 の酸素に対する質量数 18 の酸素の割合(酸素同位体 比)が骨格形成時の水温や海水の酸素同位体比(塩分指標)に依存することが知られている。この ため,海水温のみに依存する他の指標(例えば Sr/Ca 比)と組み合わせて検証することで海水の酸素 同位体比(塩分指標)を復元できる。

*3 Sr/Ca 比 … 造礁性サンゴ骨格中の陽イオンはほぼカルシウムイオン(Ca2+)であるが,ごくわず かに別の元素も含まれている。例えば,ストロンチウムイオン(Sr2+)が造礁性サンゴ骨格に取り 込まれる割合は,骨格形成時の海水温に依存することが知られているため,骨格中の Sr と Ca の比を 検証することで,過去の海水温を調べることができる。

*4 放射性炭素年代測定 … 多くの動物・植物が体内に持つ炭素の放射性同位体を用いた年代測定法。 生物の死後に新たな炭素の供給が止まり,放射性炭素同位体が一定の半減期で存在比率が減少して いく。この性質を利用し,化石や考古遺物に残った放射性炭素同位体の量から年代を算出する手法。

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